シルクエラスチンを用いた新規医療材料の開発

近年、糖尿病患者の増加あるいは高齢化に伴い、糖尿病性皮膚潰瘍等に代表される難治性創傷(慢性創傷)の増加が問題となっている。慢性創傷では、さまざまな原因で治癒が遅れ、細菌が感染を起こしてしまうような場合には、更に治癒が遅れる悪循環を生じることもある。こうしたことから、臨床現場で必要とされる褥瘡や難治性潰瘍を含む慢性創傷に対する新規の創傷治療促進材料が求められてきた。
シルクエラスチンは、シルクフィブロイン(カイコが産生する繊維状タンパク質)の部分配列とエラスチン(弾性繊維を構成する主要なタンパク質)の部分配列とを組み合わせ、遺伝子組み換え技術によって作製された人工タンパク質である。シルクエラスチン水溶液は、加温するとタンパク質の構造が変化してゲル化するという特徴を持っており、動物実験において、細菌感染を助長することなく創傷治癒を促進したことから、創傷治癒材としての可能性が期待されていた。
このたび、AMEDが支援した研究開発で、三洋化成工業(株)の川端慎吾氏らは、シルクエラスチンの難治性潰瘍に対する安全性を臨床評価すべく、共同研究機関である京都大学医学部付属病院にて医師主導治験を実施した。シルクエラスチンを、臨床で使用しやすい形のスポンジ形状に加工し、これを6例の患者の創傷部位に貼付したところ、シルクエラスチンは、重篤な有害事象や不具合もなく、ヒトに対して安全に使用でき、また設計、製造工程上の問題がないことが明らかになった。
また、有効性について、非臨床試験にて得られていた肉芽組織形成促進作用が、当該医師主導治験でも実証された。一方、滲出液が過剰な創傷に対する適用については課題も明らかになっており、これらを踏まえて今後、企業主導治験の実施ならびに薬事承認申請が期待される。